ライチョウがものすごくかわいい
この間はじめて上野動物園に行った。
動物園や博物館、遊園地などの施設は好きだ。好きなのだが向いていない。ひとつのものを眺めてゆったりと楽しむということができず、指差し点検のような勢いで、「ほい、パンダ見た」「つぎキリン」「はい、フラミンゴ」「ゴリラゴリラゴリラ」「ゴリラ」と次々と消化していくような挙動しかできない。
せめて説明書きがあればそれを読んでいる間はじっとしていられるのだけど、上野動物園はあまり説明文が多くなかった。
その日もサクサク見て終わりにならないように意識しながら「ペンギンを楽しめ……ペンギンを楽しめ……」と自分に言い聞かせながら動物園を回った。ペンギンは異様にくさかった。同行者が「鮮魚コーナー……」とはっきり声に出して呟いたのであまり見ずに爬虫類館に行った。(爬虫類館は楽しかった。)
シロクマ展示の近くにそれはいた。ライチョウだ。シロクマは気持ちよさそうにプールで泳いでいて「おー、動いてる」「動いてるぞ」「動いてるね」とたくさんの人が群がっている。しかしそんな人気者などどうでもよかった。ライチョウがかわいい。
まるまるとしたボディに低い重心、身体の大きさにはアンバランスに小さすぎる顔、そして何より足にまで毛がびっしり生えている。最高。かわいい。素晴らしい。
目に入ったときは「鳥だな」くらいにしか思わなかったのだけど、そいつが歩いてくるっと後ろを向いたときに心をわしづかみにされた。この経験は始めてだ。今までイヌやネコなどの一般的にかわいいとされている動物を見て「かわいいな~」と思うことはあっても、その「かわいいな~」は冷静さを残した「かわいいな~」だし、もし私の脳みそを覗くことができたなら、きちんと文章として「かわいいな~」と書いてあったはずだ。しかしこのライチョウを見た瞬間の脳は「わっ!」である。「わっ!」もうかわいいとかそういうのじゃない。「わっ!」
これを見て「わっ!」となった。(実物はもっとかわいい)
きっと芸能界に広末涼子が登場したときもこんな衝撃だったのだと思う。
彼女を目にした人間は「かわいい」と思う前に「わっ!」と思ったであろう。私にとって今回のライチョウとの出会いはそれくらいの衝撃だったのである。
しばらく「これゾイドにして乗りたい!」「乗りたい!」と大興奮で眺めていたのだけど、興奮しすぎて写真を撮るのを忘れていた。中途半端な一枚しかない。他のヤギとかカピバラとかは「かわいい」と思いつつも冷静さを残していたので、「かわいいな~」と写真を数枚撮っていたのだけど、ライチョウは一枚だけだ。かなり本気で後悔している。
ぶれてるし、指はいってるし、足写ってないし、なんだこの写真は。
動物をこんなにかわいいと思ったのは初めてなのだ。
もっとじっくり眺めておけばよかったと後悔しつつ、せめて写真でも見ようと、グーグルで「上野動物園 ライチョウ」で検索した。
これでもっと写真がうまい人が撮ったあいつの写真が見れるはずだ。
期待しつつエンターキーを押すと、少し前にひなが全滅したニュースがずらっと表示された。
とてもかなしい。
悲しくなるから、全滅しないでほしいな。
がんばれライチョウ。かわいいぞ天然記念物。