もうベランダがクッキングパパにしか見えない
道を歩いていると突然「あっ、クッキングパパ」と声があがった。
一緒にいたのはそういう突拍子のないことを言う人なので、発言自体には驚かなかったのだが、「ほら、あれ」と指したものを目にしたとき、思わず声が出た。
「本当だ!」
クッキングパパだ。
たくましい輪郭に、凛々しい眉、几帳面さを感じさせる髪型など、クッキングパパそのものである。
一度気付いてしまえばもう引き返せない。それからというもの、他のアパートのベランダも、クッキングパパにしか見えなくなってしまった。俺はクッキングパパに目覚めてしまったのだ。
ほらこれも!
これはどうだろう。
これはパパだ!
暗い道を歩きながら撮ったためあまりいい写真ではないが、ほんの数分歩いただけでこのパパの数だ。
ベランダはクッキングパパである。これはもう間違いない。
違う街を歩いてみれば、もっとクッキングパパなベランダを見つけられるかもしれない。街を歩くときの楽しみがひとつ増えた。
もうベランダがクッキングパパにしか見えない。