ライスがないと焼肉が食べられない

江ノ島さんと肉を食べた。

ライターの先輩である江ノ島さんはたまに「肉に行きましょう」と言って焼肉に連れて行ってくれる。その日も新宿の焼肉屋に行って肉を食らった。

最近読んだおおひなたごう『目玉焼きの黄身いつつぶす?』という食べ方こだわりギャグ漫画には、「肉にはマッコリ」「ライスなんて邪道」と言い切る社長さんが登場していたが、俺は焼肉にはライスと決めている。決めているというか、酒が飲めないのでライスがないとあぶらっこくて肉があまり入らなくなる。ライスの食べ過ぎで肉が入らなくなることはないが、ライスがないと肉が食べられないのだ。

その日も最初の注文のときに、ドリンクとてきとうな肉と、中ライスを頼んだ。江ノ島さんはビールを頼んでいたと思う。

少し待つとビールと肉が運ばれてきた。それを焼いて食べる。ライスはまだか。口の中があぶらっこい。早くライスがほしい。ふと厨房を見るが忙しそうに動いている店員さんが見えるだけだ。きっと肉を切っているのだろう。ふと店内に目を向けると別の店員さんがひまそうに自分の爪を見ながら立っていた。

どちらも店員さんでは紛らわしいので、厨房のなかにいる人を社員さん、客席側に立っている人をバイトさんと呼称しよう。実際には違っているかもしれないが構わない。

 

ライスまだかライスまだかと念じながら店内を見まわしていた俺の視線に厨房内の社員さんが気付いたらしく、カウンター裏になる何かをチェックした。

「3卓さんライス出した?」

注文票か何かを見たのだろう。客席側にいるバイトさんに確認する。

「まだでーす」

そうか、まだなのか。まだだったらよそって持ってきてくれないか。俺はライスが食べたいんだ。そのまましばしの沈黙が流れた。舌打ちが聞こえたような気がしたが、厨房と俺が座っているテーブルの距離は離れているので聞こえるわけがない。自分のものだろうか。

怒れないんだろうな、とふと思った。社員さんは決して内気そうには見えなかった。むしろ威勢がいいタイプだと思う。でもこの子にはきっと強く言えない。

社員さんは自分でライスをよそうと、さっと小走りで3卓まで来た。俺の前にライスが置かれる。「ありがとうございます」と答えて二人で一緒にバイトさんをにらんだ。

肉とライスを頬張りながら、あのバイトさんはたぶん、ずっとあんな感じで生きていくんだな、と思った。

 

 

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このわたあめは10月16日に東京カルチャーカルチャーで行われるイベントで振舞われるそうです。僕も客として遊びに行くつもりです。

 

 

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この記事のあとにも、高円寺で肉を食べました。おいしかったです。