ある程度のネタバレは覚悟でおすすめする映画『カメラを止めるな!』

これから映画の紹介をする。『カメラを止めるな!』という映画だ。「あ、それなんか聞いたことある」という人はこの先の文を読む必要はないのでそのままどうにか都合をつけて劇場に足を運んでほしい。フィクションには前情報なしの方が楽しめるものが存在し、この映画はそのひとつである。

そうでない人は前情報が少ない方がいいということを考慮したうえで読み進めてほしい。なるべく作品の楽しさを減じないように努力はするが、それでも十全ではないかもしれない。しかしそもそもどんな映画かわからなければ興味の持ちようもない、ある程度は覚悟したうえで紹介していきたい。

 

f:id:nottawashi:20180624202051j:plain鑑賞後思わず買ったパンフレット。表紙にネタバレについての記載がある。

 

 

 

〇観るのを止めるな!

この映画最大の特徴は冒頭の37分だ。37分という長尺をワンカットで撮影している。つまり失敗したら最初からやり直しの一発勝負。信じられない。なんでわざわざそんなことするの……?

そしてこの37分、違和感だらけでなんとも不思議な仕上がりになっている。

ゾンビ映画を撮影していたら、本物のゾンビが乱入してきて大変なことに」というネタも面白いし、笑えるシーンも散りばめられている。実際に海外の映画祭で上映されたときには笑い声があがっていたとの話もあった。

ただ私は笑いつつも違和感の方を多く感じた。その違和感の正体がわかるのは、映画の後半になってから。お世辞にもうまいとはいえない演技も、妙に間延びしたテンポも、やけに揺れるカメラも、意味不明な行動をする登場人物も、『低予算のB級ゾンビ映画』だからではなく、意図してつくられたものなのだ。

 

「ながら見」には向かないし、仮にAmazonプライムでなんとなく見始めていたとしたら20分くらいで中断していたかもしれない。

どんな傑作も観るのをやめてしまってはどうしようもない。この作品が最大の威力を発揮する劇場で、ぜひとも観てほしい。そうでなくともタイトルだけでも覚えておくといい。いつか話題になってあなたの手元に現れることがあるはずだから。そのときは、とにかく途中で観るのを止めるな!

 

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観に行ってほしいといいつつ、公開初日、二日目は大人気で朝のうちにチケットが完売してしまった。今後上映される映画館も増えていくはずなので諦めずにチェックしてください。

 

 

〇ネタバレ厳禁!なんてもう聞き飽きた

さきほども触れたようにこの映画には仕掛けがある。

本来であれば仕掛けがあることすら知らない状態で見るのがベストなのだろうが、なかなかそうもいかない。

 

ミステリの技法に<叙述トリック>というものがある。読者の先入観を利用し、地の文で嘘をつかずに騙すものだ。例えば登場人物に医者がいたとして、特に説明がなければ読者は男性だと思い込むが、実は女性だったと明かされる、といったトリックだ(この医者=男性という思い込みも最近では通用しなくなりつつある)。

さて、この叙述トリック、ひっかかったときの驚きは非常に強い快感を伴うので好きな人は多いのだが、「叙述トリックの傑作!」のようには勧められないという問題がある。叙述トリックとわかったうえで読むと驚きが半減してしまうからだ。

 

カメラを止めるな!』にも似た問題がつきまとう。

仕掛けのある作品なのだけど、仕掛けがあると知らずに観た方が楽しめるのだ。しかし宣伝するときに騙す気満々で「B級ゾンビ映画!」とだけ繰り返してもほとんどの人は目を向けてくれない。

 

カメラを止めるな!』に「仕掛けがある」ことはすでに伝えてしまっている。

この情報によって驚きは2割程度減じてしまったかもしれないが、実は驚きの代わりに得られるものがある。作品への信頼だ。

これは前述した「叙述トリックおすすめ問題」に対して考え続けて得たひとつの回答、あるいは言い訳でもあるのだけど、あらかじめ知っていることによって、安心して作品を楽しむことができるようになるのだ。

「これは何をやってるんだ?」と不安な気持ちになってしまうと、どんな仕掛けも頭に入らない。後で「実はこんな仕掛けが」と明かされたときも「え、全然わかんない」となりかねない。ある程度の前情報があればそれを防ぐことができる。

 

この映画には仕掛けがある。そしてその仕掛けがコメディを最高のものに仕上げているので、何が起きているのかを是非その目で確かめてほしい。

 

 

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この映画には「表と裏」がある。これだってネタバレだ。

 

 

〇意味なんてなくったっていいけど、あって面白いなら最高だよね

冒頭37分のワンカット、なぜそんな手間のかかることをしたのか。

まず「ワンカットそのものが面白い」という面はあるだろう。技術的に難しいものが達成されたとき、作り手だけでなく受け手にも多くの感動を与える。

技術的に難しいものが行われているとき、どうしても受け手側に「そこまでする意味があるか?」という疑問がつきまとう。もちろん意味なんてなくても作品として面白ければいいのだけど、気になってしまうものはしかたない。

さきほど出した叙述トリックの例でいえば、「実は男だと思ってた医者が実は女だったんだ!」と明かされたところで「だからなに?」となってしまえば意味がないし、実際にそういう作品は存在する。

 

カメラを止めるな!』には意味があった。作中での理由も納得のいくもので、なおかつメタ的な視点から見ても「なるほどこうでなきゃこれは成り立たない」と思わせられる。

なぜ37分ワンカットという困難に挑む必要があったのか、その結果どういったものができあがったのか。しかもこれが複雑なミステリではなく、単純明快なコメディとして我々を楽しませてくれるのだ。

 

 

小難しいことが好きな人も、そうでなくただ面白いものが観たい人も、間違いなく観て満足する作品である。

 

f:id:nottawashi:20180624202222j:plain監督&キャストの方々と一緒に顔ハメパネルで記念撮影していただいた。素敵な思い出。

 

 

〇そして成長の物語

素晴らしい物語には軸が二つ以上ある。

カメラを止めるな!』は、まず優れたコメディ映画であり、家族を描いたファミリー映画でもある。ある種ミステリ的な見方も楽しめるだろう。

しかしここで触れたいのは、成長の物語としての『カメラを止めるな!』だ。

誰もがやりたがらなかった低予算ドラマ、出演する俳優たちも一癖も二癖もある連中ばかり、中でも注目してほしいのは売り出し中の若手俳優、神谷和明である。

監督、スタッフ、他のキャスト、それぞれに問題を抱え、撮影を通してそれをちょっとだけ克服したり(しなかったり)する中で、特に目を引いたのが神谷の成長だ。

他人に何かをしてもらうことを当たり前と捉えずに、他人のために何かをすることを覚えたとき、人は大人になる。『カメラを止めるな!』では、若者が一皮むける瞬間がしっかりと描かれていた。

作品鑑賞の際には是非神谷の表情や立ち振る舞いに注目して観てほしい。グッときたよ!

 

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パンフレットには作品の脚本がまるごと収録されている。トークショーのある上映回ならサインももらえるかも……?

 

 

 6月27日現在は新宿と池袋の2館のみだが、今後北海道、大阪、広島、福岡での上映が予定されている。

kametome.net

 

 

 

 最後に余談。ミステリマニアにだけ伝わる例えだけど、『A HAPPY LUCKY MAN』『エンドクレジットに最適な夏』などに代表される福田栄一先生のドタバタミステリコメディが好きな人は間違いなく気に入るので、ピンと来た人は絶対に観てほしい。