『シン・ゴジラ』は本当に「一番怖いのは人間」の話なのか?
『シン・ゴジラ』見ました! とても良かった。わーい!
※このさき映画の結末を含むネタバレあります。
見終わった直後に一緒に見に行った人に「10点満点なら?」と聞かれたので、迷わず「10点」と答えました。それくらい良かった。
「なんでこうしないんだよ!」と展開がなく、基本的に登場人物は常に全員が(最適手とはいえないものの)最善を尽くしていました。
将棋に詳しいわけではないのですが、「名人同士のうった将棋の棋譜ってこんな感じかな」といった感想です。それが見ていてとても気持ちいい。
そして最善を尽くしているからこそ、それでも対応しきれないゴジラという存在の恐ろしさや、命を落としていく人々の存在が浮き彫りになっていました。
さて、さきほど触れた同行者ですが、私が何点だったか聞き返すと「5点」と言っていました。「なんで5点なんだよ!」と思わなくもないのですが、5点をつけるのも、なんとなくわかる気がします。
おそらくきちんと分析すれば、明確に「楽しめない理由」は存在するのです。いま言われている「市民が、家族が描かれていない」とか「こんなものはゴジラではない」などのケチをつけるためだけのケチではなく、もっとまっとうで納得のいく答えが必ずあります。周囲が大絶賛している中で、一人楽しめないときに感じる孤独に寄り添い、それを打ち消す方法は言語化することだけで、それを行うのが評論家とかの仕事だと思うので、評論家の人は頑張ってください(僕には無理です)。
さて、『シン・ゴジラ』が楽しめない理由とは関係あるようでない話なのですが、10点満点で10点をつけるほど楽しんだ自分にも「おや?」と思うシーンがありました。そのうちもっともわかりやすいのが下記のセリフです。
「一番怖いのは人間ってことね」
多国籍軍(アメリカ)主導の核攻撃により、東京を犠牲にしてでもゴジラを駆除すると聞かされた、市川実日子演じる尾頭ヒロミ環境省自然環境局野生生物課長補佐のセリフです。
「一番怖いのは人間」
あまりに陳腐で聞き飽きたセリフです。
これだけでがっくりきてしまう人は少なくないのではないでしょうか。事実私もこのセリフだけで「うえっ」となりました。
では『シン・ゴジラ』のテーマは「一番怖いのは人間」なのでしょうか?
そんなはずがありません。条件反射的にセリフを聞いただけで「うえっ」となってしまいましたが、落ち着いて考えれば違うことがわかります。その理由はわかりやすいものから順に三つ挙げるとすれば、
・口調が冗談めいていた
・物語の中盤で言われている
・難解を良しとする監督がテーマを直接言わせるなんてダサいことやるはずがない
一つ目はとても明快です。
「結局一番怖いのは人間ってことね~」と冗談めいた口調で言っていました。これは決して本心からの発言しているわけではなく、あくまでも一般論としてそういわれそうなシチュエーションに置かれていることへの自嘲的な感想でしかありません。
二つ目は少しわかりにくいのですが、作品のテーマとして本当に「一番怖いのは人間」が設定されているとすれば、言及されるのは物語の途中ではなく、クライマックス近くになっていたはずです。
オチとして「実はゴジラは人間が復讐のために作り出したんだー!」「なんだってー!」ならば、「一番怖いのは人間」が成立するかもしれませんが、発言があったのは物語の中盤でした。
むしろここで冗談まじりに言わせることで、終盤に入る前に『この作品のテーマは「一番怖いのは人間」ではない』と強調しているものと思われます。
三つ目。これはもう偏見で、庵野監督は言わずと知れたエヴァをつくった人です。
あれほどまでに難解な(おそらく明確なテーマや答えが設定されていない)ものを良しとしている人間が、作品のテーマをそのまま登場人物に言わせるなどという愚行を選ぶとは思えません。
というか、『シン・ゴジラ』でのゴジラは(仮に人間の手によって作り出されたものであったとしても)”神”として描かれているので、何がどう転んでも「一番恐ろしいのは人間」にはなりませんね。
はい。
ということで、
「一番怖いのは人間」というセリフが気になったけど、たぶんわざと言わせたんだろうな、という自分の疑問に自分で答えを出して終わります。ちょっと煽情的な記事タイトルをつけてしまいましたが、なんてことのない内容になってしまいました。
はい。
『シン・ゴジラ』とても面白いので、まだ見ていない方もぜひ。